【8】知的障害特別支援学級に在籍する生徒が、交流及び共同学習において得意なことが認められることによって少しずつ意欲的に学習に取り組むようになった事例
知的障害特別支援学級に在籍する中学2年生のA生徒が、通常の学級における交流及び共同学習を進めていった事例である。
A生徒は、国語、数学以外の教科については、通常の学級において交流及び共同学習を進めているが、学習の理解度や稚拙な言動により学習参加に難しさがあった。そこで、板書の書き写しやノート作りなど得意なことを評価するとともに、座席の位置やグループ編成についての配慮、「連絡ファイル」による担任と合理的配慮協力員との情報共有、A生徒へのこまめな声掛けなどにより少しずつ自信をつけさせ学習に意欲的に取り組むことができるようになった。
【7】聴覚障害生徒が得意なことを活かして交流及び共同学習に参加した事例
A生徒は、特別支援学校(聴覚障害)(以下、「B特別支援学校」と言う。)高等部2年生である。A生徒は、感音性難聴(右:人工内耳)を有し、聴覚活用と発話でコミュニケーションをすることもできるが、同校では手話を併用している。しかし、B特別支援学校以外の人とのコミュニケーションはスムーズにできない現状がある。各教科ともに学年相応の学習ができ、パソコンに詳しく、次期の生徒会長として選出もされている。
本事例は、A生徒が得意なことを活かしてC高等学校の授業に参加した交流及び共同学習の事例である。
交流及び共同学習におけるA生徒の課題は「遠慮せずに、自ら必要な支援や情報保障を求める力を伸ばすこと」である。各授業において、A生徒と他の生徒が筆談アプリによってコミュニケーションを図ることが自然に行われている。また、授業の中で大型テレビを活用するなど、A生徒や他の生徒にとって情報を得やすい工夫などを行った。生徒同士がコミュニケーションを図る時に、できるだけ教員が介入し過ぎず、生徒同士の話し合いや主体的な活動を大切にすることで、A生徒が課題を克服しやすい、自然な場面を作れるよう配慮した。このことにより、必要な支援や情報保障、コミュニケーションを図る上で配慮して欲しいことを自ら伝えられるようになってきた。
【6】特別支援学級に在籍するプラダー・ウィリー症候群の小学5年生の児童の学習意欲と自信を高めるための授業における配慮
A児は、B小学校の知的障害特別支援学級に在籍する、プラダー・ウィリー症候群の小学5年生の児童である。軽度の知的な遅れの状態と側わん症がみられる。学習面では、絵を描いたり、手紙を書いたりする活動を好む。しかし、活動の見通しを十分にもつことができないときや、急な変更があったときは、活動が停滞することがある。
本事例は、A児の学習意欲と自信を高めるための授業における配慮に関するものである。具体的には、生活単元学習の授業を例に授業における配慮を考えた。
本事例の成果は、A児が活動に見通しをもって参加し、最後まで主体的に活動を行うことができるようにするために、次のような視点から授業において配慮を行う必要があることが明確になったことである。①活動の順番がわかる手順カードを提示すること、②実際の場に近い疑似体験の場を設定すること、③正しい手順で活動できたかを確認することができる評価方法を設定することである。このような配慮を行うことで、A児は、自分がどのように活動すると良いのかを考え、取り組むことができた。
【5】特別支援学校(肢体不自由)に在籍する中学3年生の生徒の宿泊学習への参加における合理的配慮
A生徒は、B県立C特別支援学校(肢体不自由)に在籍する、脳性まひのある中学部3年生である。知的な遅れはなく、学年相応の学習を行っている。A生徒は、C特別支援学校中学部卒業後はD商業高等学校への進学を希望している。そのためにも豊かな人間関係をつくることが課題である。そこで、A生徒は、B県教育委員会が主催する地域の合同宿泊学習(地域にある複数の学校が参加する交流型の宿泊学習、以下、「宿泊学習」という。)への参加を希望した。
本事例は、A生徒が宿泊学習へ参加するために、宿泊学習の支援スタッフが、A生徒に対してどのような合理的配慮を提供したかについての事例である。
宿泊学習に引率するE教諭やそのほかのスタッフが、A生徒に活動の見通しがもてるよう配慮したり、A生徒が自分で行うことや支援を依頼することについて確認したり、A生徒の配慮事項や支援体制について情報を共有することで、A生徒は、安全で充実した宿泊学習での活動を確保することができた。
【4】四肢機能障害があり、医療的ケアが必要な中学1年生の生徒が中学校で学ぶための教材の作成・確保や施設設備の整備の取組
A生徒は、B中学校の特別支援学級に在籍する中学1年生の生徒である。ウエスト症候群による四肢機能障害がある。寝たり起きたりする動作や、歩行をすることが難しく、てんかんの小発作を頻発している。また、A生徒は、医療的ケアの必要な生徒で、胃ろうをしており、看護師が栄養や水分を経管注入している。
本事例では、A生徒が中学校で学ぶための教材の作成・確保や施設設備の整備の取組について述べている。具体的には、身体的学習や諸感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)に働きかける学習、感情表現・意思表現を喚起する学習に関する教材を作成・確保したり、特別支援学級に電動ベッドを設置したり、また、その周囲には、医療的ケアに必要な、口腔清拭や吸引器・吸入器、胃ろう用器具、空調、加湿、給湯などの設備備品を備えている。更に、雨の日の登校でもA生徒が雨に濡れないようにするための屋根、通称「雨の日車椅子ステーション」を建設している。
これらの取組により、A生徒は小学校時代に比べて変化している。また、A生徒が私たちの学校になくてはならない存在であるという実感を、生徒も教職員も共通理解している。今後は、生徒一人一人の学習の実態を多角的に把握する視点や教職員間の連携、支援を要する生徒の理解、生徒一人一人に応じた教材・教具の作製など、これからも一つ一つの課題に取り組んでいきたい。
【3】人工内耳を装着した5年生児童に対して、発音の指導及び感情の調整に関する指導を行った事例
A児は、小学校5年生で通常の学級に在籍している。難聴で左右の耳に人工内耳を装着しており、言語障害通級指導教室において指導を受けている。
自分の感情をコントロールすることができず、周りの人たちの言動にすぐにいらいらする。また、自分の気持ちをうまく表現できずに感情を露わにすることが多い。そのような時は場所を変え、担任や特別支援教育支援員が落ち着くまでそばにいて話を聞き、A児の気持ちの安定を図っている。
教員の指示や学習の理解はよくでき、気持ちが落ち着いた状態であれば、集中して学習に取り組んでいるが、会話の中で、発音の誤りや不明瞭な話し方が見られる。
落ち着いた学習環境作りや、自分や相手の気持ちをメモに記し、視覚的に整理する手法により、当初は1人で休憩時間を過ごすことが多かったが、最近は、他の児童と遊び等で楽しむことができるようになってきた。また、発音についても舌や唇の操作がうまくなり、聞き取りやすくなってきた。
言語の不明瞭さ、気持ちの切替え、意思疎通の困難さ、人工内耳、全体指示聞き取りの困難さ、保護者との連携
【2】自閉症の児童に対して、タブレット型端末等を活用し、ことばの発音をはじめとした学習支援を行った事例
A児は小学校1年生で、自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍している。視線が合わないことが多く、音などにより気が散ってしまい、集中できる時間が短い。こだわりが強く、気になることがあると他のことが手に付かなくなることもある。学習面では、足し算や引き算の計算は指を使って計算している。また、ことばの発音面では、サ行がはっきりと発音できない面がある。このことから、繰り上がり繰り下がりの計算や、サ行の発音の学習に関して、タブレット型端末を使って、算数では数を確認したり、発音練習では口の動かし方を確認したりしながら指導している。また、注意の集中や持続が困難であることから、15分程度で内容を変えて指導している。
このことにより、サ行の発音はゆっくりと話せば聞き取れるようになった。タブレット型端末にも慣れて、自分のペースで学習課題に取り組めるようになってきた。
【1】特別支援学校に在籍する知的障害と肢体不自由を併せ有する児童の小学校の行事を活用した交流及び共同学習
A児は、知的障害と肢体不自由を併せ有する、B特別支援学校小学部6年生である。座位保持椅子を使用している。日常生活においては、排せつ、移動、着替え、食事等は全介助が必要である。コミュニケーションに関しては、言語による発話はないが、音声出力会話装置のスイッチを押して応答し、呼び掛けにうなずくことがある。
本事例は、A児がC小学校の行事である、「子どもまつり」に交流及び共同学習で参加したことに係るものである。「子どもまつり」の当日は、A児も店員として参加し、音声出力会話装置を使用して受付や呼び込みの係を担当し、A児の活躍の場面を設けることができた。また、A児の呼び込みに、他学年の児童が声を掛ける様子も見られ、多くの児童と関わりをもつことができた。
児童の願いや実態を的確に把握し、各学校の担当者間で十分な打合せを行いながら協力して取り組むことが、対象児童生徒や交流先の児童生徒双方にとって効果的な交流及び共同学習につながると考える。