【38】自尊感情が低下した高機能自閉症のある中学3年生の生徒に対し、校内の支援体制を整備して指導を行った事例
A生徒は、高機能自閉症(アスペルガー症候群)があり、B中学校の3年生で自閉症・情緒学級に在籍している。入学時の学力は、学年内において上位であったが、学力の遅れと低下が見られるようになり、自己肯定感や自尊感情が著しく失われた。学校では、A生徒に対する教育的ニ-ズに十分に応えきれず、中学2年時には教員との信頼関係が喪失し、他の生徒との間でトラブルを起こし、極度の心理的不安定さが見られるようになった。この状況を改善するため、中学2年時の2学期に保護者が専門機関へ相談したことが切っ掛けとなり、専門機関と学校が連携してA生徒の障害に対する理解を図り、指導や支援についての具体的なアドバイスを専門家から受けながら改善に向けての取組を行った。A生徒は、高校進学を希望しており、進路先を決定するために、中学3年時においては生活面や学習面の改善、心理的な安定、自己肯定感や自尊感情の回復を図るための取組を行った。
【37】活動の見通しやコミュニケーションに困難さのある小学1年生の児童が、視覚的な支援により意欲的に学習に取り組めた事例
特別支援学級に在籍し、自閉症、情緒障害、学習障害のあるA児(小学1年生)について、教科指導や生活指導、保護者支援について取り組んだ事例である。
A児は、就学前に特別支援学級への在籍が検討され、B小学校では特別支援学級に在籍することとなった。活動の見通しがもちにくく、入学当初は、状況を見て集団に合わせて行動することが難しかった。整列時に列から離れ、自分の興味に固執したり、集中力が続かず離席したりしてしまうことが課題であった。
しかし、合理的配慮協力員による定期的な授業観察と、観察後のミーティングにおいて、工夫できる基礎的環境整備や合理的配慮についてのアドバイスを受けたことにより、特別支援学級の担任、交流学級の担任や管理職がA児に関する共通理解をした上で、効果的な支援をすることができた。そうした実践の積み重ねにより、A児も交流学級の中で意欲的に学習に取り組むことができるようになってきた。
【36】関係諸機関と情報を共有・検討しながら、A児(年長児)の支援を行った事例
A児は、B幼稚園に在籍する年長児である。活動の切換えが苦手で、集会や発表会などではじっとしていることが苦手なA児が、特性に応じた配慮を得ながら幼稚園生活の中で成長し、就学に向けて丁寧な準備を行っている事例である。
B幼稚園は私立であるがC市主催の研修会等への参加等、C市行政との協力体制を築き、個別の事例に係る相談も細やかに行われている。
A児については、年中から県の巡回相談、年長ではC市教育委員会の就学相談を重ね、さまざまな専門的な立場からの指導・助言を得てA児のニーズに応じた支援の在り方について協議を重ねてきた。「ここまでできたらOKのルールを決める。」、「個別の学習コーナーを設ける」などの配慮のもとで、一歩ずつ成長の姿を見せる一方、就学先であるD小学校では、学校長を核として安心して学校生活をスタートできるよう、幼稚園での配慮内容を共有したり、個別に体験学習の機会を設けたりしている。
【35】学習等の意欲が低下している中学2年生の生徒に対して、自己肯定感を高めるために行った合理的配慮の事例
通常の学級に在籍するA生徒(中学2年生)が個別の支援を毎日受けながら日々の学習や生活に取り組んでいる事例である。A生徒は入学時より、学習と生活の両面において意欲が低く、指示内容の理解が困難であり、提出物が未提出であったり、授業で使うものの準備が困難であったり、授業に参加できないことも少なくない。そこで、中学2年生になり、通常の学級の中で特別支援教育支援員による個別の支援を受けることとなった。
学級担任や特別支援教育コーディネーター、特別支援教育支援員、保護者で面談を行い、A生徒に対する個別の支援計画を立てた。規則正しい学校生活を送ることや基本的な学習内容の定着という保護者の願いのもと、授業では指示内容を理解し、繰り返して作業することを支援し、放課後に個別支援を行い、支援員が宿題や提出物の管理、身だしなみの改善など、生活面の支援を行っている。
現在は、合理的配慮協力員の指導・助言を受けながら、A生徒の自己肯定感を高めるために適時な声かけなど、具体的な支援内容の充実に努めているが、A生徒が主体的に課題解決に取り組むことがまだ難しいことが課題となっている。
【34】不登校であった中学2年生の生徒が通級による指導を活用することによって、在籍学級への復帰を目指した支援の事例
A生徒は、B中学校の通常の学級に在籍し、通級による指導を受ける中学2年生である。家庭環境が複雑で、小学生のころから不登校状態が続いていた。A生徒は、集団活動の経験も少なく、対人関係や集団参加に不安の強さがうかがえた。
A生徒が中学校に就学するに当たり、保護者から「少人数の場面であれば、登校できるかもしれない。」との申出があった。不登校が続いていたこと、検査により認知のアンバランスがみられること、小学校段階の学習が定着していないことから、A生徒は通級による指導を受けることとなり、その結果、不安や緊張が低減し、徐々に登校できる日数も増えてきた。
本事例の成果としては、A生徒は通級による指導を通して教員との信頼関係を築き、自立活動の指導を行い、基礎的な学習を定着させることによってA生徒の自信を回復することができた。現在では、通常の学級で授業を受け、合唱コンクールなどの行事にも参加ができるようになっている。
【33】特別支援学校(病弱)に在籍する自閉症スペクトラム障害のある高等部1年生の生徒のコミュニケーションや自己理解を促す支援と配慮
A生徒は、B特別支援学校(病弱)に在籍する高等部1年の生徒で自閉症スペクトラム障害がある。A生徒は、中学校の通常の学級より入学してきた。知的な遅れはないが、他者とのコミュニケーションがうまくとれず、また対人緊張も非常に強い。不特定多数の集団に属して活動や生活を行うと、過度の不安や緊張などが出現し、他者とコミュニケーションが全く取れなくなり、日課の遂行も難しい。
本件は、A生徒に対して、場に応じた言葉遣いや相手の気持ちを理解する等の他者とのコミュニケーション能力を高めるための個別指導を行った事例である。個別指導では、A生徒ができること、できないこと等を掲示し、視覚的にA生徒が自分の内面や気持ちを理解できるようにし、他者とのコミュニケーションや自己理解を促す支援と配慮を行った。
このような支援等をA生徒に続けた結果、A生徒が中学生のときは不登校気味であったが、今では集団活動にも参加し、生徒同士で関わりをもつことも増え、自分の意見もしっかりと伝えることができるまでになっている。
【32】集団への適応が困難な小学2年生の児童に対して、工夫した教材を提供しながら、ペア学習やグループ学習を取り入れた実践事例
B小学校の自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍している2年生のA児が、通常の学級での交流及び共同学習を行っている事例である。A児は、語彙が少なく、一語文で話すことが多い。うまく気持ちが伝わらず、途中であきらめたり、その後の学習に取りかかれなかったりすることがある。学年相応の学習が可能であるが、字の形を整えることが難しかったり、読み飛ばしがあったりする。鉛筆も握り持ちして書くことが多い。
保護者と合意形成を図りながら、個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成し、評価・修正をしながら指導・支援を行った。ビジョントレーニングや聞き取り学習、ソーシャルスキルトレーニング、具体物を使った数の学習などを行った。
さらに、交流及び共同学習では、交流学級担任も含めた学年集団で研究会を設け、A児の特性を把握し、適切な合理的配慮について検討した。特に算数科に重点をおいて取り組み、ぺア学習やグループ学習を取り入れ、小集団の中で安心して発言することができるようにした。また、三角鉛筆の使用、座席配置の配慮、ワークシートやヒントカードの利用、具体物を使った教材の工夫などを行い、A児が学習に意欲的に取り組めるようにした。
【31】ADHDの高校3年生に対して進路指導と関連付けながら、場に応じた言葉遣いや話を聞く態度を身に付けるための合理的配慮を行った事例
A生徒は、B高等学校普通科に在籍する3年生である。小学生の時に注意欠陥多動性障害(ADHD)及び学習障害(LD)の診断を受けており、授業中に廊下に飛び出すなど、衝動的な行動を取ることがあった。高校入学後は、外に飛び出すなどの行動はなくなったものの、集中して人の話を聞くことができず、不適切な行動を取ることが多い。
3年時に実施したA生徒と保護者との面談の中で、場や状況に応じた言葉遣いや、人の話を聞く態度や姿勢に対する支援の希望が出された。また、当初は、就職希望だったが、3年生の1学期に高等職業専門校進学へと進路変更を行った。
これらを踏まえ、週1時間のソーシャル・スキルトレーニング(以下、「SST」という。)を行い、コミュニケーションスキル向上を目指した。また、エゴグラムを活用した自己分析をもとに受験指導に取り組んだ。さらに、個別の教育支援計画等も全教員で共有した。その他にも、各学年で実施するインターンシップの事前指導において、場に応じた言葉遣いの模範を示し、繰り返し練習する機会を設けた。その結果、A生徒は学習意欲が増し、自信を付けることができた。希望していた進学先にも合格することができた。
注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、ソーシャル・スキルトレーニング(SST)、進路指導、エゴグラム
【30】集団行動が難しく、幼稚園になじめない幼児に対して、落ち着いて過ごすことができるようにするための取組に関する事例
本件は、 A児(B幼稚園の3歳児クラスに在籍)の事例である。入園当初より落ち着きがなく、登園時に入室を嫌がり、泣いたり奇声をあげたりする姿が見られた。基本的生活習慣もほとんど身に付いていなかったため、教員が個別対応で援助していた。
A児は、視線が定まらず、話しかけても応答がほとんどない。他の園児とも関わろうとせず、1人で歩き回ることが多かった。集団生活では、教室に入るものの、活動の意味を理解できず、室内を歩き回ったり室外へ出ようとしたりする姿が見られた。このため、2学期からは、無理にA児を集団に合わせようとするのではなく、できることを少しずつ行うことで、幼稚園がA児にとって居心地のよい場所になるよう配慮して指導を進めた。2学期に入ると、日によっては、靴の脱ぎ履き、かばんをかけるなどの身支度が自分でできるようになってきた。友達への関心も出始め、教員が仲介する中で友達の持っているものに興味を示したり、友達の動きを目で追ったりするようになった。3学期に入るとA児の行動範囲が広がり、他児と別行動をとり教室外で過ごすことが増えてきた。職員全体でA児がどこで何をしているのかを把握し、のびのびと過ごせるように見守っている。
【29】コミュニケーション及び日常生活リズムに課題のある生徒への指導事例
A生徒はB高等学校普通科に在籍する3年生である。自分の考えや意見を言葉で表現することが極端に苦手で、活動への取組に時間がかかる。また、生活リズムが整っておらず、遅刻が多い。
本件は、外部の相談機関の助言を受け、学校とA生徒、保護者が合意形成を図りながら、合理的配慮を提供した事例である。B高等学校では将来の就職のことを視野に入れ、放課後の時間にソーシャルスキルトレーニング(以下「SST」という。)を月に1、2回の頻度で実施した。SSTの内容は、指示の聞き方やメモの取り方、報告の仕方、助けの求め方等であった。また、コミュニケーション上の課題に対しては、特別支援教育コーディネーターや合理的配慮協力員の協力を得て、同様の課題のある生徒数名で昼食をとりながら自分の考えや意見を言う「ランチタイムセッション」を行った。ここでは、A生徒の生活リズムの改善を図るための支援も行った。
年度末には、時間はかかるものの、「分かりませんでした」等の意思表示ができるようになった。また、生活リズムの改善が見られ、遅刻も減る傾向にあった。しかし、SSTで目標としたスキルが十分獲得できず、生活リズムも安定するまでに至っていないため、卒業後も引き続きC県教育センターのD相談室で継続した支援を実施することとなった。